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2006年10月20日 (金)

バンコク ドンムアン空港の思い出

 半信半疑だったがバンコクの新空港スワンナプーム新国際空港がようやく開港した。

 高架鉄道BTS、地下鉄と、バンコクの交通網は近年飛躍的に進化していよいよ空も新時代を迎えたようだ。BTSも地下鉄もバンコクの慢性的な渋滞もなんのその、汗もかかずに快適で素晴らしいが、昔ながらの乗り物がその影響でどんどん消えていくのではと思うと寂しい気もする。

 少々大げさだがドンムアン空港は、私の旅の思い出のいつもスタート地点だった。

 初めての海外旅行、しかも一人旅で、週1便のビーマンバングラデシュに乗って夜遅くにバンコクに到着した時のことは今でも忘れられない。期待と不安にドキドキしながら飛行機を降りて空港に入るゲートをくぐった時のこと。夜だというのにムワッとした東南アジアの湿気を含んだ生温かい空気に包まれ、入国審査官のお茶目な笑顔に癒され、その日の宿も決めていなかった私はさてこれからどうしようとキョロキョロしている時、同じように不安そうにキョロキョロしている同年代らしき女性と出会った。聞けば彼女もタイ一人旅で宿も決まっておらず、2週間後の帰りの便も一緒、しかも同い年。意気投合し二人でタクシーで安宿街に行こうと話していると、周りで聞き耳をたてていたらしき学生風の男性達が、では僕もという風になんとなく集まり総勢5人で空港からタクシーに乗り、夜のバンコクの街を安宿街へ向かった。宿を決めると再度みんなで集まり、知らぬ者同士でバンコク到着をビールで祝った。その後、そのままタイ国内を旅行する人、翌日の便でインドへ向かう人、いろんな人がいたが、東京で再会したり、旅先から絵葉書をくれたり、今でも交流のある人もいる。その彼女とはいったんタイ国内で別々に離れたが、タイ東部のカンチャンブリーという所の水上ゲストハウスにチェックインした際に、そのゲストハウスの前の川で楽しそうに泳ぐ彼女と偶然再会した。そして帰りのドンムアン空港でまた再会。それぞれの旅の思い出を語りながらバンコクを後にした。

 旅の行き帰りだけではない。バンコクに住んでいた時は実に多くの友人や家族がタイを訪れてくれた。その度にドンムアンに迎えに行っては懐かしい顔を探した。少し寂しい気持ちで多くの人々を見送りもした。一番心に残っているのは母親が来てくれた時だ。

 私がタイに行く!と宣言した時は気丈に後押ししてくれた母だったが、やはり娘の異国での生活が心配だったのか、初めての海外旅行にも関らずチケットを手配して1人でやって来た。ロビーで出待ちをしながら、不安そうな面持ちで現れた母は、私の顔をみつけると、お土産いっぱいの袋を抱えてかけよって来てくれた。歳のいった母が、飛行機の中や空港で心細い気持ちになっただろうと胸打たれたが、実は好奇心と行動力に富んだ母で、バンコク滞在を私と一緒にバイクタクシーにまで乗ってエンジョイし、元気に日本へ帰っていったものだ。

 そんな多くの旅の思い出があったドンムアン空港も、いずれは軍用空港に生まれ変わるらしい。新しくても古くても同じ空港は空港。しかし、大きくて便利で最先端になればなるほど味気なさも増すような気がするし、馴染み深い空港がなくなるのは寂しいものだ。

 新空港のスワンナプームは、ドンムアンの数倍の大きさで、バンコク東部のサムットプラカーンという場所にある。この地域は日系企業の工場なども多く点在し、私もバンコクで一時期勤めていた企業の営業として訪問したことがある地域だ。まさかサムットプラカーンに新空港を建設中とは当時は知らず、ベンツに運転手付きの形だけはゴージャスな営業スタイルで、周辺の工場を飛び込み営業して周った記憶がある。あの時は辛くて、個人的にはいい思い出のある場所ではないが、早く噂の新空港も見てみたいものである。

 新空港もこれから多くの旅人の思い出のスタート地点になるだろう。でも私は、ドンムアンを訪れることはもうないと思うと、とても寂しい気持ちになる。

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2006年10月12日 (木)

久々の山登りin北アルプス燕岳②

 翌朝は早朝5時頃からモゾモゾと起き出す。私は朝はめっぽう苦手な人間で、早朝起きは正直自信が無かったが、山の朝は早く、ご来光を見ようとまだ朝明けやらぬ時間から山頂を目指す人、縦走のため前日に頼んでおいたお弁当を受け取って早々と出る人で、早くから皆起き出すので自分も目が覚めてしまう。

 頑張って起き出して、山小屋を出ると、やがて真っ暗で何も見えなかった周囲に、一面の雲海がうっすらと現れ、雲海の向こうに山々が見えてくる。Photo 幻想的な眺めに心を奪われながら、早朝のキーンとする寒さの中、温かいコーヒーを飲みながら太陽が昇る瞬間を待つ。やがてその瞬間が訪れると、辺りは柔らかな陽射しに包まれる。遠くには雲海の中に富士山が。Photo_1 アジア各地でいろんな山を見たが、富士山の他者を寄せ付けない凛とした佇まいにはやはり感動を覚える。

 朝6時からの山小屋での朝食をすませ、山頂を目指す。山頂への道のりは約20分位だろうか。山頂までの道のりは独特の花崗岩と低いハイマツで覆われた道を進む。やがて山頂に近付くと、岩の上にポツンと人影のようなものが。遠めから見て小さな人のような影が、狭い岩の上で遠くをみつめている。Photo_2 更に近付くとその人影だと思われた正体が猿であることに気づいた。その孤高の姿はまるで仙人のようでもある。

 山頂からは360度の山、山、山の眺め。槍ヶ岳、奥穂高、立山・・・。裏銀座と呼ばれる数々の山々が大パノラマで目の前に広がる。特に峻険な山容を見せる槍ヶ岳は私の憧れの山のひとつ。いつか登りたい山。Photo_3 その思いが叶うのはいつだろうか。そんな思いにとらわれながら山頂を後にした。

 下山はもちろん登りよりも楽であることは間違いないが、登りよりも神経を使う。滑って怪我をしないように慎重にくだりをこなし、3時間半ほどで登山口に帰り着いた。途中、合戦小屋でいう休憩スポットで、スイカとあったかいうどんに心を奪われるも、山小屋のお弁当もあり、後ろ髪を引かれながら小屋を後にする。

 燕岳の良いところは登山口に温泉があること。下山してすぐ車から着替えを取り出し中房温泉の露天風呂で汗を流す。

 人はなぜ山に登るのか。難しい問いに答えはなかなか出ないが、辛い登りを終えた後のビールと、下山の後で汗を流す熱々の温泉の醍醐味は、単純ながら私の中では大きな理由であることは間違いがない。

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