バンコク ドンムアン空港の思い出
半信半疑だったがバンコクの新空港スワンナプーム新国際空港がようやく開港した。
高架鉄道BTS、地下鉄と、バンコクの交通網は近年飛躍的に進化していよいよ空も新時代を迎えたようだ。BTSも地下鉄もバンコクの慢性的な渋滞もなんのその、汗もかかずに快適で素晴らしいが、昔ながらの乗り物がその影響でどんどん消えていくのではと思うと寂しい気もする。
少々大げさだがドンムアン空港は、私の旅の思い出のいつもスタート地点だった。
初めての海外旅行、しかも一人旅で、週1便のビーマンバングラデシュに乗って夜遅くにバンコクに到着した時のことは今でも忘れられない。期待と不安にドキドキしながら飛行機を降りて空港に入るゲートをくぐった時のこと。夜だというのにムワッとした東南アジアの湿気を含んだ生温かい空気に包まれ、入国審査官のお茶目な笑顔に癒され、その日の宿も決めていなかった私はさてこれからどうしようとキョロキョロしている時、同じように不安そうにキョロキョロしている同年代らしき女性と出会った。聞けば彼女もタイ一人旅で宿も決まっておらず、2週間後の帰りの便も一緒、しかも同い年。意気投合し二人でタクシーで安宿街に行こうと話していると、周りで聞き耳をたてていたらしき学生風の男性達が、では僕もという風になんとなく集まり総勢5人で空港からタクシーに乗り、夜のバンコクの街を安宿街へ向かった。宿を決めると再度みんなで集まり、知らぬ者同士でバンコク到着をビールで祝った。その後、そのままタイ国内を旅行する人、翌日の便でインドへ向かう人、いろんな人がいたが、東京で再会したり、旅先から絵葉書をくれたり、今でも交流のある人もいる。その彼女とはいったんタイ国内で別々に離れたが、タイ東部のカンチャンブリーという所の水上ゲストハウスにチェックインした際に、そのゲストハウスの前の川で楽しそうに泳ぐ彼女と偶然再会した。そして帰りのドンムアン空港でまた再会。それぞれの旅の思い出を語りながらバンコクを後にした。
旅の行き帰りだけではない。バンコクに住んでいた時は実に多くの友人や家族がタイを訪れてくれた。その度にドンムアンに迎えに行っては懐かしい顔を探した。少し寂しい気持ちで多くの人々を見送りもした。一番心に残っているのは母親が来てくれた時だ。
私がタイに行く!と宣言した時は気丈に後押ししてくれた母だったが、やはり娘の異国での生活が心配だったのか、初めての海外旅行にも関らずチケットを手配して1人でやって来た。ロビーで出待ちをしながら、不安そうな面持ちで現れた母は、私の顔をみつけると、お土産いっぱいの袋を抱えてかけよって来てくれた。歳のいった母が、飛行機の中や空港で心細い気持ちになっただろうと胸打たれたが、実は好奇心と行動力に富んだ母で、バンコク滞在を私と一緒にバイクタクシーにまで乗ってエンジョイし、元気に日本へ帰っていったものだ。
そんな多くの旅の思い出があったドンムアン空港も、いずれは軍用空港に生まれ変わるらしい。新しくても古くても同じ空港は空港。しかし、大きくて便利で最先端になればなるほど味気なさも増すような気がするし、馴染み深い空港がなくなるのは寂しいものだ。
新空港のスワンナプームは、ドンムアンの数倍の大きさで、バンコク東部のサムットプラカーンという場所にある。この地域は日系企業の工場なども多く点在し、私もバンコクで一時期勤めていた企業の営業として訪問したことがある地域だ。まさかサムットプラカーンに新空港を建設中とは当時は知らず、ベンツに運転手付きの形だけはゴージャスな営業スタイルで、周辺の工場を飛び込み営業して周った記憶がある。あの時は辛くて、個人的にはいい思い出のある場所ではないが、早く噂の新空港も見てみたいものである。
新空港もこれから多くの旅人の思い出のスタート地点になるだろう。でも私は、ドンムアンを訪れることはもうないと思うと、とても寂しい気持ちになる。
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