早朝、ご来光を見に皆が起きだす音で目が覚める。いつも思うが、中高年の登山者の方々は、登っている時も朝もとにかく元気。
山小屋で用意してもらったお弁当を持って小屋を出る。今日は1時間ほどかけて地蔵岳の山頂を目指し、そこから観音岳→薬師岳と縦走する。ありがたいことに雨は降っていないが、肌を刺すような凛とした空気が冷たい。樹林帯を抜けると足をとられやすい白砂のような山肌を登り、ようやく地蔵岳の山頂に到着。風が強く吹き飛ばされそうな勢いだ。
地蔵岳の「賽の可原(さいのかわら)」というところには、その名の通り子授け地蔵が安置されている。その昔、健やかな子供を授かることを願って、こんな2700m以上のところまで地蔵を背負ってきたのだろう。たくさんのお地蔵さんが安置されている光景は圧巻であった。
ここから先、観音・薬師まではずっと登りではなく、右に勇壮な白峰三山などを望みながらゆるやかに稜線を進むので、前日のような苦しさはない。白峰三山とは北岳・間ノ岳・農鳥岳で、一般的にはあまり知られていないが北岳は富士山に次いで日本で2番目に高い山である。
1番というのはたいてい誰でも知っているものだが、2番手というのは覚えられないことが多い。世界1の山はエベレスト(チョモランマ)であることはたいていの人が知っているが、2番目はパキスタンにあるK2であることは知らない人が多い。私は7年前にパキスタンのトレッキングでK2を見たが、エベレストよりも険しい山という印象だった。日本の2番手である北岳にも7年前に登ったことがあるが、かなりハードな山で大変だった記憶がある。改めて外から見ると、自分が登ったことがあるとはにわかに信じられない。
観音岳で素晴らしい山々の風景に囲まれながらお弁当を食べ、暖かいコーヒーをいただく。寒くて手が震えるが、こういう風景の中で新鮮な空気を吸いながら飲むコーヒーは最高だ。
続けて稜線を更に伝い、薬師岳に到着。 山頂には白い花崗岩が点在し、その向こうにはうっすらと富士山が見え、青い空とのコントラストが美しい。
ここからは樹林帯を抜けながらひたすら下りへ。途中で登ってくる登山者にたくさん会う。中高年の登山者は夫婦で登っている人々も多い。パートナーのペースに合わせながら、ゆっくりゆっくり登って、山の風景を楽しむ。山に来ている人々は欧米の夫婦のように、歳をとってもいたわりあいながら同じ時間を楽しんでいるように見えて羨ましい。
5時間ほどの下りを経て足はガクガク。樹林帯の木漏れ日に照らされる木々の美しさに目を奪われながらあっという間であった。
下山後は車で甲府へ移動。以前甲府に住んでいた頃にはまって通った山の上にある「ほったらかし温泉」へ向かう 。ここは甲府盆地を一望できる温泉で、4年位前までは知る人ぞ知る温泉であった。夜、遅い時間に行くと客も少なく、独り占め気分で甲府の夜景を望む露天風呂に入ることができた。
ところが今回行って愕然。昨今の温泉ブームで、マスコミにとりあげられてからというもの、人が殺到し、ここはバーゲン会場かというくらいの人ごみ。大型観光バスも乗り付ける一大温泉地になっていた。そこに風情と癒しはなくなってしまった。ここに来ることを長い間楽しみにしていたため、非常にがっかりした。もうここに来ることは無いと思うと悲しい。
今年はどの山に登ろう。冬山を登らない私にとっては、山に登れる期間は短いので、今からあれこれと考えを巡らせている。
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